エーゲ海東岸リュディアにすむ女性、アラクネは機織りの名人だった。
実はこの腕前は、仕事熱心だったアラクネにこっそりとアテナが授けたものだったのだ。
次々と織り上げる素晴らしい壁掛け布が評判を呼び、裕福になると彼女は次第に高慢になっていった。「機織り勝負ならあのアテナにも負けない」と豪語するようになったのだ。寛大なアテナもさすがに怒り、ある日老婆の姿で彼女の前に現れ、その高慢な態度を改めるように諭したのだ。しかしアラクネは聞く耳を持たず、「アテナがいまだ私の前に現れないのは勝負が怖いからだ」と言った。
「アテナならもうここに来ている!」
怒りにアテナはそう叫び、老婆から神の姿を現した。それでも恐れぬアラクネは目を見て再度勝負を挑んだのだ。
それを受けてアテナが織り上げたのはポセイドンとの領地争いで自らが勝利した場面を描いた素晴らしいものだった。だがアラクネの技術も素晴らしく、思わずアテナも感心してしまうほどだった。
しかしその織り上げられた絵のモチーフに気が付き激怒した。アラクネが描いたのはアテナの父であるゼウスが牛や鷲、白鳥に姿を変え乙女や少年を手込めにする様だったのだ。
アテナはその忌々しい布を引き裂いた。その姿をみてやっと恐怖を抱いたアラクネは恐れのままに自ら首を吊ろうとしたのだがアテナは彼女を死なせず、永遠に糸を紡ぎ織る運命である蜘蛛に姿を変えたのだ。
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